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＝＝＝新派大合同を見て 大西利夫＝＝＝ 三拍子揃った「女将」 辰巳巷談 喜多村国宝的の至芸
［この］芝居の山は後半にあるそうした難の責任の一半は藤村秀夫の芸の浅さにあるといつては気の毒だが、どうも演技が無雑作で気分が出なかつたようである、さもあらばあれ、花柳の細かいところは、来客が去つたあとの気の弛みと疲れから、棒になつた足の膝をたたいたり薄あくびをしたり、それからしんみりと昔のことや娘の話をし出すあたり絶品と申すべし、特につけ加えるが、新派の端役の人々の忠実さとうまさにはいつもながら感心させられる、明石光代の板場の女房など特賞に価する
［同じ］久保田万太郎脚色演出泉鏡花原作「辰巳巷談」は喜多村緑郎丈の国宝的存在を見せる芝居、但し喜多村丈と他の諸丈と芸のリズムがあいかねるようで、結局鏡花ものにしてはヤボつたく、新派にしては洒落すぎたものになつているので面白いが感銘がない、喜多村丈の本領は序幕の講茶屋で茶店の娘（森赫子）が何げなく取あげた名刺から花魁胡蝶（花柳）の好きな男を自分の生んだ子と知るくだん、娘と名刺のとりやりから縁台へ崩折れる段どりの幕ぎれで極め付の至芸を見せてくれる ［筋の］面白さでは川口松太郎作、大江良太郎演出の「月夜鴉」の方に歩がある、もちろん今日の新派畑の大甘物で演出も楽々とやつているし、見ていて愉しいが、幕が多すぎて興味を中断するのが惜しい、花柳の杵屋の娘勝子はお誂えだから悪かろうはずもなく、伊志井の杵屋和吉が愚直な男を巧みに描いている、その 他の杵屋社中は大矢の家元をはじめ、この職業人の、それこそ生態の研究が十分でないらしい感がある、大団円のハッピー・エンドが御安ちょくすぎる（関西演劇ペンクラブ会員） ＝＝＝秋のまんざい大会 戎橋松竹十月下席番組 大阪戎橋松竹十月下席は“秋の■松まんざい大会”と銘打つて二十一日初日（三十一日まで）番組つぎの通り ∇砂川捨丸・中村春代∇浪花家市松・芳子∇浮世亭夢若・松鶴家光晴・∇松葉家奴・喜久奴∇浮世亭夢丸・吾妻ひな子∇中田ダイマル・ラケット∇市川福治・五十鈴∇塚本やつこ・市松笑がほ・笑美子▽桜山源若・小奴∇橘ミノル・双葉みどり∇望月凡太・星ララ子（十二時、五時二回公演、二百円） |
［気の］きいたパチンコ屋ならもうそろ廃業するいまどき、愚老のようなのが時代錯誤にのたり出る幕ではないが、頼まれれば越後から米つきにと、いまの若い衆にはラテン（語）のようなことわざをたよりに、久方ぶりに見る歌舞伎座の新派、まず小言からさきに申すと、改装後の歌舞伎座はマイクが行届きすぎて大向うでは竹ぼらをふくようなセリフのアマンジャクが入り乱れ、声はすれどもチンプンカンプンに終るところ随所にあり、隅から隅までずいとご注意乞い願う―――これは新派のせいではないからさて本論に入つて、今度のだし物の中、何といつても圧巻は北条秀司作演出の「女将」であろう、作、演出、演技、三拍子共にそろつてよし、殊に料理茶屋とその族の生態描写の心にくいまで細かいのには敬服する、難をいえばその生態描写にこだわり過ぎて舞台の出道具がゴチャゴチャして、却つてきたなくひなびて見えること、芝居では三幕目の後半、大水のひいたあとのような淋しさと静けさと、しんみりした気分が今ひとつと思つた
知切光蔵原作、久保田万太郎脚色演出の「花と龍」は大江美智子の引越しだなんていつたら撲られるだろう、それだけに見ていて愉快なヤクザ物であるが、最後に、ほりもの師のお京が、生命がけでほれた玉井金五郎の腕に、ほりこんだ龍のほりものの中に「お京のいのち」と入れてあるかくし銘を、金五郎が女房にいいつけてしらべさせるのを見て、これじやあ「私の負けさ」と恋をあきらめて立ち去るというところに三十年程前の新劇のにおいがする、花柳のお京は太々しさが古風で、幕ぎれセンチメンタル姉御が少しくすぐつたい、伊志井の金五郎は線の太さが秀逸、英ちやんの島村の「おばば」大矢の江崎の万吉のどこかとぼけた持味がこの芝居のぎごちなさをほぐしている、英ちゃんといえば久しぶりに見る舞台、いよいよアクがぬけて来たのは祝着、少々肥りすぎて愚老最初一寸見わけがつかなんだ、大分お気楽だね