新春早々、思いがけない代役がとびこみ、汗をかいています。急死された花柳喜章さんの「浮気の手帖」（花登筐作・演出）の社長の役を、四日から代わってやっているのです。全く思いもよらないことでした。あの日、喜章さんは、お昼からちょっと身体のぐあいがお悪いようだったんです。昼の部の「源氏物語」でご一緒するものですから「いかがですか」っていったら「いや、たいしたことはないようです」っておっしゃってたのですが……。

わたしが新派へ入れていただいた時は、すでに喜章さんはフリーになっておられたので、私的なおつきあいはありません。しかし、昨年の三月客演され、それが契機で十一月に再び戻られることになり、わたしは喜んでいたんです。年齢的にも近いし、また違った芸域と味を持っておられる方でしょ。日ごろから、新派は女優はいいが男優が……といわれていますから、喜章さんが復帰されることは、われわれ男優陣にとっては援軍来るの思いだったんです。残念です。今はただご冥福を祈るのみです。